より よく 生きる

よりよく生きるために

映画・宇宙でいちばんあかるい屋根

昨年だったか、「線は、僕を描く」という小説を読んだ。家族を失ったことで心が空っぽになってしまった大学生の男性が、水墨画と出会うことで彩りを取り戻していくという物語だったように記憶している。

それまで水墨画といえば、TV番組でチラとみたりという程度でほとんど触れたことがなかった。だからか、ただぼんやりとした白と灰色と黒の濃淡でのみ描かれているだけの絵というイメージだった。しかし、水墨画で描かれた絵には奥行きがあり、彩がある。墨で書かれた薔薇の花が、白と黒で描かれたはずの作品に赤い色が見えるのだ。作品を通してそれらを知り、こんなにも美しいものなのかと驚愕したのを鮮明に覚えている。

 

 

知らなかったのだが、横浜流星さんが主演で映画化されるらしい。原作公式サイトがなかなか面白く、水墨画の道具についても紹介されている。文章だけでは想像できない専門道具に関してはやはりこういったところで知識を得るのが一番だろうと思う。

senboku.kodansha.co.jp

 

閑話休題、何故唐突に昨年読んだ物語の話を始めたのかという話をしようと思う。実際のところ、小説を読んだことも内容も覚えてはいるが、1年も過ぎたことで水墨画のことは記憶の片隅へと追いやられ、意識することのなかった今日この頃。ふとしたことで思い出したのだ。

 

またネタバレ交えて綴っていこうと思う。

「宇宙でいちばんあかるい屋根」

14歳のつばめは、隣人の大学生・亨にひそかに恋心を抱く普通の女の子。両親と3人で幸せな生活を送っているように見えたが、父と、血のつながらない母との間に子どもができることを知り、どこか疎外感を感じていた。

誰にも話せない思いを抱える彼女にとって、通っている書道教室の屋上は唯一の憩いの場だった。ある夜、いつものように屋上を訪れたつばめの前に、ド派手な装いの見知らぬ老婆が現れる。

その老婆「星ばあ」がキックボードに乗って空を飛ぶ姿に驚きながらも、不思議な雰囲気を漂わせる彼女に次第に心を開き、恋や家族の悩みを相談するつばめだったが…。(映画.comより引用)

eiga.com

 

見どころが何処かと聞かれると困ってしまうが、わたしはとても良い映画だと思う。

主人公つばめの悩みや葛藤への対峙、両親の優しさもよく描かれていたし、恋愛映画として男性俳優のイケメンっぷりで胸キュンエピソードが…的な展開でもない。星ばあを演じられていた桃井かおりさんも良い意味でざっくばらんなお婆さんで、そこがまたよかった。見どころを聞かれると困るが、好きなシーンを挙げたらキリがない作品だった。

 

つばめにはひばりという産みの母親がいる。水墨画の世界では有名な画家らしい。しかしつばめが2歳のときにでていってしまった。今現在、つばめは父親と育ての母親と住んでいるが、今の両親の子が生まれるということで疎外感を感じ、様々な葛藤を経て、産みの母に会いに行くシーンがある。その時に水墨画の個展を訪れるのだが、描かれた鳥たちがとても美しかった。水墨画、やっぱいいなぁ。描いてみたいなぁ、なんて思いながら観ていた。そしてまた別の個展にて植物の水墨画が展示されている。そのうちの一枚である向日葵が実に黄色かったのだ。

脳が勝手に補正するのだろうか。斜めから正面にアングルが変わっていくのだが、じつに黄色い花びらが見えて、自分でも疑った。しばらく見ているとちゃんとその絵は水墨画で白と灰と黒で彩られていた。とても不思議な体験をした。

 

この作品の主人公はつばめだが、やはり一番目をひくのは 星ばあである。キックボードで空をとぶというファンタジー設定もあるが、それは冒頭のみで、それ以外はまぁ普通のかわったお婆さんなのだ。年をとったらなんでもできるようになる、という不思議設定は何だったのだろうか。いろいろと不可解な点は多いのだが、まぁそれはそれでよし。星ばあが屋根にこだわる理由も後半に理由が判明するし、まぁ全てが謎の老婆ではなく人間らしい人だったのだ。こういうお婆さん、いたらいたで面倒だけど、憧れる。桃井かおりさんはヘルタースケルターさくらんなどの役の印象が強かったので、こういった老婆役をするのは少し以外だったが、とてもよく似合っていたと思う。(褒めてる)

 

皆さん素敵だというのは前提として、この作品の男性陣で一番素敵なのは、言わずもがな父親だろう。つばめの不満が爆発して両親に暴言を吐いたときも、頭をなでて 母に謝りなさい と諭す、愛情深い人だった。演じられている吉岡秀隆さんが本当に素敵で、優しさが全身からにじみ出ているように感じた。つばめの元カレである笹川も愛らしい感じでよかった。演じられている俳優さん、些細な演技上手すぎないか…?ティッシュを渡すシーンのモタモタ感とか、本当によかった。そして、お隣さんである亨だが、爽やかで優しいお兄さん。でも、ちょっと不安要素の多い人物。彼に関しては最後まで掴み切れなかった。いい役で終わるのか、否か。いや、悪く考えすぎるのも私の悪い癖である。

 

全体通して優しい気持ちで観れるので疲れた時にまた機会があれば観ようと思う。「線は、僕を描く」は折角なので劇場に観にいこう。